50歳、大阪在住の会社員・Fさんは、2020年に“マクログロブリン血症”と診断されました。それ以前から健康診断で異常が見つかっていたものの、無症状だったため経過観察を続けていました。診断後、治療を開始しながらも、Fさんは仕事と日常生活を工夫して両立しています。特に医療者の情報提供を積極的に活用し、より良い選択を続けている姿勢は、多くの患者さんにとって参考になるでしょう。
診断までの道のり
- 聞き手
- 診断に至るまでの経緯を教えていただけますか?
- Fさん
- 2013年の健康診断で血液異常が見つかりましたが、自覚症状がなかったので特に対処しませんでした。2016年には貧血を指摘されましたが、その時も大きな問題とは思っていなかったんです。2019年の秋、体調が少し悪くなり、10月に近所のクリニックを受診しましたが特に明確な指摘事項はなく、翌年1月、関節痛のような症状があり整形外科を受診し血液検査をしたところ、異常が見つかり、大学病院に紹介されました。
- 聞き手
- 大学病院での診察が決定的だったのですね。
- Fさん
- はい、膠原病を疑われて受診したのですが、検査の結果、血液疾患の可能性があると言われ、その日のうちに血液内科へ紹介されました。そこで多発性骨髄腫かリンパ腫の疑いがあると告げられ、さらに骨髄穿刺等の検査の結果、2020年2月にマクログロブリン血症と診断されました。
- 聞き手
- その突然の診断、どのような心境でしたか?
- Fさん
- 最初は混乱しましたね。血液のがんという言葉に衝撃を受け、数日間は気持ちが落ち込んでいました。でも、その後は情報を集めることで少しずつ落ち着きを取り戻しました。何から調べればいいのかわからないなか、かかっていた大学病院にがんセンター・がん相談支援センターがあったので予約を取って相談したり、会社の産業医に相談したことで、信頼できる情報源にアクセスできたことが大きかったです。
- 聞き手
- 情報はどのように集めたのですか?
- Fさん
- 主にインターネットを利用しました。信頼できる医療機関のウェブサイトや、医師が提供する動画コンテンツを参考にしました。特に、医療専門家が解説する動画は、治療の進め方や副作用の軽減法などが具体的で非常に役立ちました。また、がん相談支援センターのサポートも受け、治療法や生活への影響を総合的に把握できたと思います。最初に相談したときに高額療養費制度のことについて教えていただいたことは本当に有難かったです。
- 聞き手
- 会社の産業医にも相談されたのですね。
- Fさん
- はい、職場の産業医からも、信頼できる医療情報源の助言だけでなく、体調不良時の対応や休養の取り方についてアドバイスをもらい、業務を無理なく続けられる環境づくりに役立ちましたね。
治療開始とその決断
- 聞き手
- 治療を開始するタイミングはどのように決まったのですか?
- Fさん
- 診断を受けてから、2か月ごとに通院しながら経過観察をしている間は、体調が悪くて動けない、ということもなく通常通り仕事もしていました。ところが7か月ほど経過したとき、貧血の症状や倦怠感がひどくなり視力が低下してきたり、寝汗であったり、治療開始の目安となるような症状が気になるようになってきました。特に貧血は、午後から10分程度歩くのにも息を切らしてしまうような状況で、治療開始前には仕事を休むような状態になっていました。またちょうどその頃、この病気に対する新しい分子標的薬が承認されたタイミングでもあり、医師と相談して、2020年10月に治療を開始することになりました。
- 聞き手
- 治療法はどのように決められたのでしょうか。
- Fさん
- 治療法としては、従来の点滴による抗がん剤治療と、分子標的薬(内服薬)の選択肢を提示されました。抗がん剤のほうは、初回のみ入院で、6-8回やって休薬。その後IgM値が上がったり、自覚症状が出てきたらまた開始する繰り返しになる。分子標的薬は毎日継続して服薬する、と。つまり、従来の抗がん剤は図に例えると山谷のある治療であり、分子標的薬は毎日服薬一直線の治療だと説明を受けました。どちらが好ましいかは、患者さん自身のライフスタイルや価値観等鑑みて考えるのが良いとのことで、仕事を継続するのであれば、内服薬である分子標的薬の方が良いのではないか、との話になり、決めました。
- 聞き手
- 治療を始めた時の心境はいかがでしたか?
- Fさん
- むしろ前向きでした。自覚症状が治まってくれるなら、と、早く治療を進めたいという気持ちでしたね。また、治療が始まる前に予め副作用や効果について自分でも調べていましたし、詳しい説明を受けていたので、大きな不安はありませんでした。
- 聞き手
- 治療中に特に苦労したことはありましたか?
- Fさん
- 最初は2週間ごとの通院が必要で少し手間でしたが、半年後には4週間ごとの通院に変わりました。大きな副作用もなく、体調も安定していました。ただ、治療による軽い倦怠感が続いたこともあり、仕事終わりに少し休養が必要な日もありました。
- 聞き手
- 治療に関する情報収集も役立ちましたか?
- Fさん
- はい。医師の説明に加えて、専門家による動画や記事が非常に参考になりました。自分が使う薬が従来のものに比べ高い奏効率で、効きそうだということは素人目にもわかり、希望に繋がりました。自分に合った治療法を選択できたと思います。また、治療費の面では高額療養費制度の活用についても情報を得て、経済的な不安を軽減できたのが大きかったです。
- 聞き手
- 薬剤に対する期待や信頼についてはどう感じていましたか?
- Fさん
- 自分の場合、分子標的薬を選んだことで通院の頻度が減り、副作用も最小限に抑えられたので非常に助かりました。医師からもこの薬の効果が長期的に期待できるとの説明を受けていたので、治療に前向きになれましたね。
家族や職場への影響
- 聞き手
- 診断後、ご家族や職場にはどのように伝えましたか?
- Fさん
- 家族には診断直後に話し、妻は動揺していましたが、次の通院時に一緒に説明を聞いてもらったことで、少し安心してくれました。子どもたちには特に変わりはありませんでしたね。職場にはすぐに所属部長に報告し、必要な部署には部長から伝えてもらいました。
- 聞き手
- 職場の反応はいかがでしたか?
- Fさん
- 同じ血液のがんと向き合うご家族がいる方からも声をかけていただき、いろいろと情報交換することができました。また、この病気がすぐに命にかかわるものではないと説明すると「それなら大丈夫ですね」、と言っていただいたり、ねぎらいの言葉も多くいただきました。
通院は2ヶ月に1回のペースで、仕事との両立を続けていました。ただ、診断から数年後には体調管理のために職種や業務内容を調整しました。無理をしない範囲で日常生活を送っています。 - 聞き手
- 職場では業務調整のほかに、どのようなサポートがありましたか?
- Fさん
- 定期的に産業医との面談がありました。体調や勤務状況を確認してもらうことで、無理をしていないかを見直す良い機会となっていました。
現在の生活と展望
- 聞き手
- 現在の生活はいかがですか?
- Fさん
- 治療を継続しながら通常の生活を送っています。仕事も続けていますが、残業や出張は控えています。副作用として肝機能障害や低ガンマグロブリン血症があり、週1回、1時間から1時間半ほどかけて、免疫グロブリン製剤の皮下投与をしなくてはならないが多少面倒ではありますが、これも今では生活の一部になっています。これに慣れるまでには少し時間がかかりましたが、今では特に不自由を感じていません。
- 聞き手
- 将来について何か不安に感じていることはありますか?
- Fさん
- 治療を中断せざるを得ない事態が怖いですね。一度コロナ感染で治療を中断した時、IgM値が急上昇して自覚症状も出ました。このようなことが再び起こると、仕事や生活に支障が出るのではと懸念しています。子どもが自立するまであと10年~15年は働かないと、と思っていますので。特に、感染症への注意は今も続けています。
- 聞き手
- 最後に、同じ病気に向き合う方々へのアドバイスをお願いします。
- Fさん
- 焦らず、規則正しい生活を送り、適度な運動で治療に耐えられる体力を維持することが大事だと思います。また、信頼できる情報を得るために、がん相談支援センターなどを活用することをお勧めします。そして、やはり情報を取捨選択するのは患者自身です。信頼できる情報源を見極め、自分から積極的に情報を取りに行く姿勢が大事だと思います。適切な情報を基に、病気と向き合うことが重要ですね。