毎年欠かさず受けていた胃カメラ検査で、「早期胃がんの疑い」と告げられたTさん。しかし、その後の詳しい検査で診断されたのは胃の辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)でした。放射線治療を想定していたTさんでしたが、主治医から提示されたのはリツキシマブというもう一つの選択肢。自ら情報を集め、医師と十分に相談した上で納得して治療を選択したTさんに、診断から治療までの経緯、そして現在の思いを伺いました。
『胃がんではなくリンパ腫かもしれません』その電話が一番つらかった
- 聞き手
- 診断は、人間ドックではなく、毎年受けていた胃カメラがきっかけだったそうですね。
- Tさん
- はい。もともと逆流性食道炎が少しあったので、毎年クリニックで胃カメラを受けていました。2024年の年末も、自覚症状はまったくありませんでした。検査が終わったその日に、「早期胃がんの疑いがあります」と説明を受けました。
- 聞き手
- そこから診断が変わったのですね。
- Tさん
- そうなんです。年明けにクリニックから電話があり、「胃がんではなさそうなので、さらに詳しい病理検査をしたい」と言われました。その数日後に、「リンパ腫の可能性があります」と連絡があったんです。その電話を受けた時が、一番つらかったですね。悪性リンパ腫がどんな病気なのかも分かりませんでしたし、「これからどうなるんだろう」という不安でいっぱいになりました。
- 聞き手
- その後、大学病院を紹介されたのですね。
- Tさん
- はい。クリニックの先生から大学病院を紹介していただきました。大学病院でも改めて胃カメラとPET-CTを受けましたが、病変は胃だけで、ほかの臓器への広がりはありませんでした。
そこで胃のMALTリンパ腫と診断されました。他には転移がないと聞いた時は、少し安心したことを覚えています。
放射線だけではありませんでした。リツキシマブという選択肢
- 聞き手
- 治療については、どのようなお話があったのでしょうか?
- Tさん
- 私は、胃のMALTリンパ腫なら放射線治療になるものだと思っていました。ところが血液内科の先生から、「リツキシマブ単剤という治療もあります」と説明を受けました。正直、まったく想像していなかった治療だったので驚きました。
- 聞き手
- すぐに決断できましたか?
- Tさん
- 最初は迷いました。「本当に放射線をしなくていいのかな」と不安もありました。でも先生は、「放射線科でも話を聞いてから決めていいですよ」と言ってくださったんです。どちらかを押し付けることはまったくありませんでした。
- 聞き手
- その姿勢が安心につながったのですね。
- Tさん
- そうですね。「どちらを選んでも尊重します。」そんな雰囲気で話を聞いてくださったので、自分も安心して考えることができました。放射線治療は毎日通院しなければならず、副作用への心配もありました。一方でリツキシマブなら、生活への影響も比較的少なく、もし将来別の治療が必要になった時に放射線という選択肢を残しておけるかもしれない。そう考えて、リツキシマブを選びました。
- 聞き手
- ご自身で納得して決められたのですね。
- Tさん
- はい。先生から十分に説明を受け、自分でも調べた上で決めたので、「これで良かった」と思っています。
YouTubeが、不安を安心へ変えてくれました
- 聞き手
- 病気について、ご自身でもかなり調べられたんですか?
- Tさん
- はい。診断されてからは、本当に毎日のように調べていました。一番よく見ていたのはYouTubeです。病院の先生方が講演している動画や、がんフォーラムなどを何度も見返しました。
- 聞き手
- 動画の方が分かりやすかったのでしょうか?
- Tさん
- そうですね。先生ご本人が説明してくださるので、信頼できますし、とても理解しやすかったです。「予後は比較的良い」「寿命も一般の方と大きく変わらない」という話を聞いた時は、本当に安心しました。不安になった時は、その言葉を何度も思い出していました。
- 聞き手
- 情報不足は感じられましたか?
- Tさん
- MALTリンパ腫は患者さんが少ないので、新しい情報はあまりありませんでした。濾胞性リンパ腫など、近い病気の動画まで見ながら勉強していました。「もっと患者向けの情報が増えてほしい」と何度も思いました。
副作用が少なかったから、普段どおりの生活を続けられました
- 聞き手
- 実際にリツキシマブで治療を始められて、いかがでしたか?
- Tさん
- 1回目だけは副作用が出ないか確認するために3泊4日入院しましたが、その後は週1回の通院を4回行いました。幸い、大きな副作用はほとんどありませんでした。
- 聞き手
- 生活への影響も少なかったのでしょうか?
- Tさん
- はい。家事も普段どおりできましたし、体調が悪くなることもありませんでした。自分でも病気を忘れてしまうくらい、これまでと変わらない毎日を送ることができました。
- 聞き手
- お仕事はいかがでしたか?
- Tさん
- もともとネット通販の仕事をしています。体調には問題ありませんでしたが、将来、もし病気の状態が変わった時に備えて、仕事は少し縮小しました。以前は人に仕事をお願いすることもありましたが、今は自宅で自分一人でできる範囲にしています。今後のことを考えて、自分なりに無理のない働き方へ切り替えました。
- 聞き手
- ご家族はどのような反応でしたか?
- Tさん
- 主人も大学生の息子も心配はしていたと思います。でも私自身に症状がなく、見た目も何も変わらなかったので、「病気」という実感はあまりなかったのではないでしょうか。私自身も、治療が始まってから生活が大きく変わることはありませんでした。ただ、今でも時々、「もし形質転換したらどうしよう」と不安になることはあります。その不安だけは、完全にはなくならないですね。
- 聞き手
- 経済的なことも気になりましたか?
- Tさん
- はい。通院治療なので、入院保険は最初しか使えませんでした。高額療養費制度は利用していますが、それでも治療が長く続けば負担は積み重なります。病気と長く付き合うことを考えると、医療費への不安はあります。
納得して選んだから、後悔はありません
- 聞き手
- 診断から約1年が経過したようですが、振り返って、一番つらかったことは何だったでしょうか?
- Tさん
- やはり、「リンパ腫かもしれません」と電話で言われてから、病気のことが分からなかった時期ですね。悪性リンパ腫とはどんな病気なのか、この先どうなるのか、何も分からないまま過ごした時間が、一番つらかったと思います。
- 聞き手
- その不安は、どのように変わっていったのでしょうか?
- Tさん
- 自分で調べて、先生の話を聞いて、「どういう病気なのか」「どんな治療をするのか」が分かってくると、不思議と気持ちも落ち着いてきました。分からないことが一番不安なんだと、改めて感じました。
- 聞き手
- 主治医との関係についてはいかがでしたか?
- Tさん
- 先生は本当に話しやすくて、質問するといつも丁寧に答えてくださいました。待ち時間は長いですが、それは大学病院なので仕方がないと思っています。治療についても、「こちらが正解です」と決めるのではなく、「放射線でもリツキシマブでも、納得して選んでください」と言ってくださったことが、とても安心につながりました。
- 聞き手
- ご自身で治療を選ぶことに、プレッシャーはありませんでしたか?
- Tさん
- ありませんでした。もちろん自分でもたくさん調べましたし、疑問は全部先生に聞きました。だから、「自分で決めなければいけない」という負担よりも、「自分の考えを尊重してもらえている」という安心感の方がずっと大きかったです。納得して選んだからこそ、「この治療で良かった」と思えています。
- 聞き手
- 最後に、これからMALTリンパ腫と診断される方へメッセージをお願いします。
- Tさん
- 診断されたばかりの頃は、不安でいっぱいになると思います。私も「リンパ腫かもしれません」と言われた時は、本当に頭の中が真っ白になりました。でも、病気のことを知り、分からないことを先生に聞き、自分でも情報を集めていくうちに、不安は少しずつ小さくなっていきました。今はYouTubeなどでも、信頼できる先生方が分かりやすく情報を発信してくださっています。ぜひ一人で抱え込まず、正しい情報に触れながら、納得できる治療を選んでほしいと思います。どの治療を選ぶか以上に、「自分で納得して決められた」と思えることが、その後の安心につながるのではないでしょうか。